石器屋稼業2019/02/05

 現在の生業は石器専門の図面屋である。世の中にこんな仕事があるのか?と「それはどんな仕事?」と聞き返されることもある稀有な職業なのだが、結構永く続けている。というか、結果的に成り行きで随分永くやってきたというのが現実だ。
 考古学をやってきたと言っても、関わり方によって携わってきた仕事は様々で、もちろん遺跡の発掘から報告書作りを基本ではあるが、ある部分だけの作業を委託されることもある。
 大学に籍があった頃は、研究所の職員として海外調査やそのマネージメントに従事したこともあるが、独立してからは行政(主に埼玉県内)に依頼されて遺跡発掘や報告書作りに携わる傍ら、別途に石器の実測作業を頼まれることも在った。そうやって暮らしを立てている頃、子育てのために、思い立って自宅を建て福島の山里(三春町)に移住をしたのだが、居住地域が変わったこともあって、現場作業に携わることもなくなり、報告書作成作業の支援業務としての実測図作成や図面のトレース作業などを主にこなすことになり、やがて石器実測図の作成のみに特化してきた。
 何故石器だけなのかと言うと、自宅の自室で作業しているため、かさばる土器類には手を出せないというのが実情だが、経歴的にも石器中心の報告書作成作業に関わってきたし、何よりプロである以上、不勉強な分野を仕事にすることは良心的にも出来なかった。また土器研究に於いては型式認定や解釈などで地域差が大きく、そもそも外部委託するのは整理作業の一部にあたる単価の安い単純作業が主体で、アルバイトやパートを使う必要もあり、ビジネス的にはリスクが大きいという判断をせざるを得なかった。
 一方石器の実測図については、団塊世代の引退後、各地で的確な図面を書ける経験豊富な人材が不足し、熟練の石器屋は希少な存在となり、こうした書き手を必要とする顧客は全国に拡がっていると言ってもいい状況になった。しかも最近では行政のみならず、遺跡発掘を業務とする民間企業からの委託を受けることも多くなり、隙間産業的ではあるが、事業的にも何とかやっていけると考えてきた。
 考古学の図面と言っても、紙と鉛筆の世界と違って、最近はデジタル図面が主流なので、多忙な年は年間1000枚以上の図面をPCで仕上げる生活をしている。平均的には月間100枚前後の実測図を書いており、日常的に石器の撮影・観察・図化作業の繰り返しなのである。
 考古学にとって、出土した遺構や遺物と向き合い観察する事が研究の第一歩だと考えているため、毎日が研究といえば研究なのであるが、委託業務をこなしているのであって、すべてを自分で決められる個人研究とは趣が違う。発注者の意向に合わせて図化する、いわばイラストレーター的側面が強い。ときには石器が解らない発注者が、プロの図面に赤(修正)を入れてくることもたまにはあるが、そうした場合、直接話ができる環境ならば、できるだけ専門家としてアドバイスをして学術性の担保には気を配ってきたつもりである。
そんな暮らしが30年は続いただろうか、思えばよくやってきたものだ。今年65歳になるし、あと何年続けられるだろうか? そんな事を考えながら、今日も石器実測を始める。

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